高校生のための現象数理学入門講座と研究発表会2021
目 的 :
先端数理科学インスティテュート(MIMS)では、2011年から毎年、「高校生による現象数理学研究発表会」を開催してきました。あいにく2019年の第9回は、台風のため直前に中止を余儀なくされ、2020年は新型コロナ感染症の広がりを受けて開催できませんでしたが、2018年の第8回まで全国各地から多くの高校に参加していただき、活気のある研究発表の場を提供することができました。これらの発表会に参加してくださった高校生や高校教師の皆さま、また、このプログラムの開催に協力してくださった関係者の皆さまに、この場を借りて御礼申し上げます。
さて、MIMSでは、今年度から新しいプログラムとして「高校生のための現象数理学入門講座と研究発表会」を立ち上げることにいたしました。これは、数理的視点を自然や社会の理解に活用する面白さを一流の講師が語る入門講座と、高校生による研究発表会の二部構成になっています。二部構成にすることで、多角的な視点から現象数理学の魅力を伝えることができ、より多くの皆さまに興味をもっていただけると考えております。また、こうした活動を通して、わが国における現象数理学の裾野がさらに広がるよう願っております。発表会に参加しない方も視聴は自由ですので、多くの方々のご参加・ご視聴を歓迎いたします。
MIMS所長 俣野 博
開催概要
開催日 : 2021年10月9日(土)、10日(日)(参加無料)
開催方法 : Zoom社の Webinar 機能を使用したオンラインで開催
本研究会のプログラム :
本研究会は、次の2部構成になります。
・第1部: 現象数理学入門講座
・第2部: 高校生による研究発表会
スケジュール
| 10月9日(土) |
| 13:50 |
開会の挨拶と趣旨説明 |
| 14:00~14:50 |
現象数理学入門講座
「現象数理学おもしろ講座 1」
矢崎成俊 (明治大学 理工学部 教授)
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| 14:50~15:00 |
質疑応答 |
| 15:00~15:50 |
現象数理学入門講座
「トポロジーで探る対称性と周期性 1」
河野俊丈 (明治大学 総合数理学部 教授)
|
| 15:50~16:00 |
質疑応答 |
| 10月10日(日) |
| 10:00~10:50 |
現象数理学入門講座
「現象数理学おもしろ講座 2」
矢崎成俊 (明治大学 理工学部 教授)
|
| 10:50~11:00 |
質疑応答 |
| 11:00~11:50 |
現象数理学入門講座
「トポロジーで探る対称性と周期性 2」
河野俊丈 (明治大学 総合数理学部 教授)
|
| 11:50~12:00 |
質疑応答 |
休憩
|
| 13:00~17:00 |
高校生による研究発表会・表彰式,講評
- MIMS所長挨拶
- 受賞研究の紹介
- 表彰状授与
- 受賞の挨拶
- 受賞者による研究発表
- 結びの挨拶
|
◆ 視聴のみの参加も可能です(無料)。 高校生や高校教諭に限らず、どなたでも視聴できます。
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第1部:現象数理学入門講座
◆ 講師 : 矢崎成俊 (明治大学理工学部数学科 教授)
「現象数理学おもしろ講座」
◆ 講師 : 河野俊丈 (明治大学総合数理学部現象数理学科 教授)
「トポロジーで探る対称性と周期性」 |
※ 数理的視点を自然や社会の理解に活用する面白さを一流の講師が語る入門講座です。
※ それぞれ約50分の講義が2回ずつ行われます。
(講義題目は変更される可能性があります)
【矢崎成俊】
(明治大学理工学部数学科 教授)
「現象数理学おもしろ講座」
講演動画 講座1

講演動画 講座2

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撮影・河野裕昭 |
講義内容
例えばレシートのような小さな紙片を自分の頭の高さから落とすことを考えてみましょう。紙片はひらひらと複雑な動きをしながら落下するので、何秒後に地面に落ちるかを正確に予測することは困難です。
しかし、紙片の代わりにテニスボールだったら、かなり高い精度で落下時間と落下地点を予測することができるでしょう。
この違いは何でしょうか?逆に考えると、紙片の行方を正確に予測するにはどんな条件が必要でしょうか?
ぼくらの身の回りには、見慣れているけどよくよく考えると不思議で面白い現象が沢山あります。また、感染症流行や地震、温暖化など、解決の難しい問題も沢山あります。これらの現象は、なぜ正確に予測することが難しいのか、そしてそのような現象を扱うためには、どのように観察し、理解していけばいいのか、そのヒントとなる見方や考え方を、簡単な実験などを交えながら紹介します。
専門分野 : 界面現象の数理解析、実験数学
経歴
1993年 早稲田大学理工学部数学科卒業
2000年 東京大学大学院数理科学研究科博士課程修了
学位:博士(数理科学)(東京大学)
2000年 電気通信大学電気通信学部 助手
2001年 武蔵工業大学(現・東京都市大学)工学部 講師
2003年 宮崎大学工学部 助教授
2012年 明治大学理工学部 准教授
2015年 明治大学理工学部 教授(現在に至る)
著書(主なもの)
『実験数学読本』1,2,3巻,日本評論社,2016,2019,2020.
『界面現象と曲線の微積分』,共立出版,2016.
『大学数学の教則』,東京図書,2014.
『動く曲線の数値計算』,共立出版,2019.
他
特記事項

- 高校生、数学愛好家、小中学生たちなど相手に実験教室や実験数学の講演を年に10回程度催している。
- 雑誌『数学セミナー』(日本評論社)に2年間の連載2回を含む、合計50本以上の記事を寄稿。
(最初の連載は2011年4月から1年間『自分でつくる現象数理』というタイトルでした。)
- 2021年夏から、日本数学会の雑誌『数学』(岩波書店)の編集長(予定)。
- 2021年秋から、雑誌『日経サイエンス』、雑誌『現代数学』に連載予定。

【河野俊丈】
(明治大学総合数理学部現象数理学科 教授)
「トポロジーで探る対称性と周期性」
講演動画 講座1

講演動画 講座2

講義内容
私たちのまわりには、様々な規則的なパターンが存在します。原子や分子などの配置、植物の葉の配列などはそのようなパターンの例です。
このような規則性について対称性をキーワードにして記述することを考えます。2つの方向の平行移動で変わらないような対称性のパターンは平面結晶群によって記述されますが、これをトポロジーの考え方を用いて分類することを説明します。さらに、周期性を持たないタイル貼りについても扱います。
専門分野 : トポロジーと幾何学、および数理物理などへの応用
経歴
1979年 東京大学理学部数学科卒業
1981年 東京大学大学院理学系研究科修士課程修了
学位:理学博士(名古屋大学)
1981年 名古屋大学理学部 助手
1988年 名古屋大学教養部 講師
1990年 九州大学理学部 助教授
1992年 東京大学大学院数理科学研究科 助教授
1995年 東京大学大学院数理科学研究科 教授
2007年より東京大学国際高等研究所カブリ数物連携宇宙研究機構 主任研究者を兼任
2020年 明治大学総合数理学部 教授(現在に至る)
著書(主なもの)
『組みひもの数理』 遊星社
『曲面の幾何構造とモジュライ』 日本評論社
『場の理論とトポロジー』 岩波書店
『反復積分の幾何』」 シュプリンガー・ジャパン
『結晶群』 共立出版
特記事項
受賞:日本数学会2013年度幾何学賞
幾何学模型の保存と制作、幾何学の可視化に関わるアーティストとの協働に携わる。
https://www.ms.u-tokyo.ac.jp/models/ 参照
その他のアウトリーチ活動
- 東京ガーデンパレス紀尾井町数学セミナー「数学×宇宙」(2018年)
- ひらめき★ときめきサイエンス〜ようこそ大学の研究室へ〜KAKENHI
- 「美しさと対称性をランダム性から考える」(2018年)
- NHKカルチャーセンター現代数学講座
- 「ブラックホールの幾何学」(2021年)
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第2部:高校生による研究発表会
高校生による現象数理学に関する研究を募集します。応募内容を審査し、優れた研究を複数表彰します。
2021年度の募集は終了しました。
2021年度の募集概要(参考)>>>
◆ 2021年度 高校生による研究発表会の受賞者が決定しました。
[俣野博MIMS所長のコメント]
今回の応募研究の中には意欲的で水準の高い研究が数多くあり、審査員も驚くほどでした。これらの若い才能を、今後もしっかり伸ばしていってほしいと思います。
【高校生による研究発表会2021 受賞者】
| 【優秀賞】 |
筑波大学附属駒場高等学校
大山 弘翔
「円形会議場での効率的かつ安全な会議方法」
国際会議に代表されるような議論の場は円形の会議場で行われることが多い。この時、果たして自分が座っている席で立って話をするのは効率的な方法なのだろうか。それに加えて昨今の新型コロナウイルスが蔓延している状況の中、飛沫はどれくらい拡散してしまうのだろうか、円形会議場の中心に立って議論を進める場合と比較して検証をした。それにあたり、複素数平面上を主に用いて必要な関係式を新たに導出し、そして理想的なモデルを立てて数理科学的な手法をもとにシミュレーションを行った。その結果、円形会議場においては、会議の効率性と安全性の二側面を総合的に判断できる指標の値をもとに考えると、おおよそ3倍ほど自分が座っている席で立って話す方が、円の中心に立って話すよりも効率・安全の面からリスクが高いことが導出された。飛沫の散布量、すなわち感染リスクの面からみるとおおよそ1.3倍ほど同様に自分が座っている席で立って話す方が中心に立つよりも危険性が高いという結果を得た。
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広島大学附属高等学校
柴田 美羽、井口 瑠花、小野 実紀、髙野 はるか
「Buffon’s leaf problem」
私達は, ビュフォンの針問題を発展させ,落ち葉のような複雑な図形からπの値を近似する理論(Buffon’s leaf problem)を新しく考案した。この理論の1つ目は,落ち葉が平行線に交差する確率を求めることである。先行研究により,凸多角形が平行線に交差する確率はすでに明らかにされている。本研究では,凹多角形が平行線に交差することは,凹多角形の凸包が平行線に交差することの必要十分条件であることを証明した。2つ目は,落ち葉の大きさの違いをどのように近似に取り入れるかである。落ち葉の凸包の分布に周長の逆数をかけることで大きさの違いに対応することができる独自の計算方法を作成した。この計算方法をもとに,大きさが違う落ち葉を平行線上に投げる実験を再現するコンピュータシミュレーションを行い,計算方法の妥当性を検証し,次に実際に落ち葉を投げる実験を行い,落ち葉の写真を使ってπを近似することに成功した。
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広尾学園高等学校
武村 綾音、品川まゆ
「塾生数の動向予測 -SIR モデルとヒット現象モデルを用いたシミュレーション-」
現在、少子化が進む中で子供を対象とした塾の経営に関心を持ち、塾生数を考察できないかと考えた。先行研究は見つからなかったが、感染症数理モデルとして知られるSIRモデルと類似していると考え、これをもとに独自のモデルを作成した。そのとき、少子化や広告の影響、さらには高校卒業により退塾する人数も考慮した。この未来予測は塾の経営側の重要な判断資料となり、より効率的な運営や質の高い教育の提供に繋がり、学生の能力向上が期待できる。シミュレーションを行った結果、実データに近い値を算出でき、2032年以降塾生数が減少することがわかった。また、宣伝力kを高めることにより、減少する時期が遅まった。また、正確性を高くするために、ヒット現象モデルの利用を試みた。今後、先に挙げた2つのモデルを組み込んだ新たなモデルを構築し、両者の課題でもあるパラメータ設定の基準も明確にし精度の高いシミュレーションの実現を望んでいる。
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| 【奨励賞】 |
広尾学園高等学校
須賀 茉莉愛、他1名
「実現可能な錯視立体の作成」
針金を用いて作るワイヤーアートという芸術分野があり、多視点ワイヤーアートの作成や最適化の研究が数学を用いて行われている。このことに興味をもったため、多視点ワイヤーアートを実際に作成しながら仕組みについて考えた。その後、不可能立体や不可能モーションというものに興味を持ち、現在は作成しながら数学的アプローチを模索している。今後の展望は論文を精読して錯視立体を作成したい。
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広尾学園高等学校
美和 紗佳
「待ち行列理論を用いたエスカレーターの乗り方の評価」
エスカレーターは本来歩いてはいけないのにも関わらず、東日本では、左側が止まって乗り、右側は歩く人のために空ける傾向がある。歩いている人がいない状態でも右側を使わず左側だけを使用するため、無駄に渋滞が起こることがよくある。本研究ではエスカレーターにおいて、正しい乗り方、つまり両側を歩かずに乗る乗り方と、現在一般的となっている、右側は歩く人専用とした場合の乗り方の、一人あたりの平均利用時間を比べて、どちらが渋滞を起こしやすいのかを待ち行列理論を用いて解析した。具体的には中目黒駅の実データを元に、左側と右側の到着率の比をt:(1-t)として一人あたりの期待利用時間を計算をした。解析の結果、両側とも歩かずに乗る乗り方のほうが、電車から降りてきた客の混雑を早く解消させていることが分かった。
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問い合わせ先
明治大学先端数理科学インスティテュート(MIMS)
〒164-8525
東京都中野区中野4−21−1
明治大学中野キャンパス 高層棟8階
TEL : 03-5343-8067 (月~金の平日 9:30~16:00)
E-mail:mims.cmma.meiji [at] gmail.com
※メールアドレスの[at]を @に変更してください。
主 催
明治大学先端数理科学インスティテュート(MIMS)
- 本研究会は、MIMSが運営する文部科学省共同利用・共同研究拠点 明治大学「現象数理学研究拠点」の活動の一環として開催します。文部科学省「特色ある共同研究拠点の整備の推進事業」JPMXP0620335886の助成を受けています。